孫への贈与は特別受益? 該当するケースと遺産相続の基本
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- 特別受益
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大分市の公表によると令和5年の死亡者数は5425名でした。相続が開始される前に、相続税対策として孫への贈与を考える方は少なくありません。
ただし、孫が代襲相続人である場合や、被相続人と孫が養子縁組をした場合には、例外的に孫への贈与が特別受益に当たり、原則としてその金額を相続分の計算に反映させなければならないため注意が必要です。
本記事では特別受益の概要や、孫への贈与が特別受益に当たるのかどうかなどについて、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。
1、特別受益とは?
「特別受益」とは、相続人が被相続人から特別に受けた遺贈(=遺言による贈与)または贈与です。特別受益の金額は、原則として「持ち戻し」により相続分に反映させるものとされています。
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(1)特別受益の要件
特別受益に当たるのは、相続人が被相続人から受けた遺贈または贈与のうち、以下のいずれかに該当するものです(民法第903条第1項)。
① すべての遺贈
② 以下のいずれかに該当する贈与
- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
特別受益者となるのは、相続人のみです。相続人以外の者が受けた贈与は、特別受益に当たりません。
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(2)特別受益に当たる贈与の具体例
特別受益に当たる贈与としては、以下の例が挙げられます。
- 被相続人の子が結婚した際に、新居を借りるための支度金として、被相続人から100万円をもらった。
- 被相続人の養子が、養子縁組をするに当たって被相続人の自宅の近くに引っ越すことになり、その際に被相続人から引っ越し費用などとして100万円をもらった。
- 被相続人の子が、仕事を始めて自立する際に、生活費に充てるためのお金として、被相続人から100万円をもらった。
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(3)特別受益の金額は、原則として相続分に反映させる
相続人が得た特別受益の金額は、原則として相続財産への「持ち戻し」を行い、相続分の計算に反映させます(民法第903条第1項)。
たとえば、配偶者A・子B・子Cの3人が相続人で、相続財産が3000万円分存在するとします。
特別受益がなければ、法定相続分はAが1500万円、BとCが750万円ずつです。
仮に、Bが特別受益1000万円を得ていたとします。
この場合、Bの特別受益を相続財産に加算した4000万円を法定相続分に従って分け合い、Bの法定相続分からは特別受益分の1000万円を差し引きます。
その結果、法定相続分はAが2000万円、Bが0円、Cが1000万円となります。
このように、特別受益を得た相続人の相続分は減り、他の相続人の相続分は増えます。
ただし、特別受益の持ち戻しは、被相続人の意思によって免除することができます(民法第903条第3項)。
遺言書などの被相続人が作成した書面において、特別受益の持ち戻しを免除する旨が記載されていれば、特別受益があってもないものとして取り扱い、通常どおりの方法で法定相続分を計算します。
2、孫への贈与は、原則として特別受益に当たらない
被相続人が孫に対して贈与をしても、孫への贈与は原則として特別受益に当たりません。孫は、原則として、相続人に当たらないからです。
相続人に当たるのは、被相続人との間で以下の続柄にある者です(代襲相続が発生した場合を除く)。
- ① 配偶者
- ② 子
- ③ 直系尊属(※子および自分より親等が近い直系尊属がいない場合のみ)
- ④ 兄弟姉妹(※子および直系尊属がいない場合のみ)
孫は上記のいずれにも該当しないので、後述するケースを除き、被相続人から贈与を受けても、原則として特別受益に当たりません。
同様の理由で、相続人の配偶者(婿・嫁)が被相続人から贈与を受けたとしても、原則として特別受益には該当しません。
3、孫への贈与が特別受益に当たるケース
相続人に当たらない孫が被相続人から受けた贈与は、原則として特別受益に該当しません。
しかし、例外的に孫が相続人となるケースもあり、その場合は被相続人から受けた生活費などの贈与が特別受益に該当する可能性があります。
孫が相続人となるのは、以下のケースです。
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(1)孫が代襲相続人である場合
相続人である子または兄弟姉妹が、死亡・相続欠格・相続廃除のいずれかによって相続権を失った場合、その相続人の子が相続権を取得します(民法第887条第2項、第889条第2項)。これを「代襲相続」といいます。
たとえば、被相続人が死亡する前に、相続人であるAが死亡していたとします。Aに2人の子ども(B・C)がいたとすると、BとCが代襲相続人となります。
BとCは被相続人の孫に当たりますが、代襲相続によって相続人となりますので、B・Cが被相続人から受けた生活費などの贈与は生計の資本としての贈与として特別受益に当たる可能性があります。
なお、被相続人より先に被相続人の孫も亡くなっている場合などには、さらにその子(=被相続人のひ孫)による「再代襲相続」も認められています(民法第887条第3項)。
この場合、被相続人からひ孫が受けた贈与も特別受益に当たる可能性があります。 -
(2)被相続人と孫が養子縁組をした場合
被相続人と養子縁組をした者は、実子と同等の立場で相続人となります。
相続税対策などの一環として、被相続人が孫と養子縁組をしているケースはよくあります。被相続人と養子縁組をしている孫は相続人であるため、被相続人から受けた生活費などの贈与は生計の資本としての贈与として特別受益に当たる可能性があります。
4、遺産相続について弁護士ができるサポート
特別受益をはじめとして、遺産相続には、相続人同士で揉めやすいポイントや処理の難しい手続きが多数含まれています。スムーズに遺産相続を完了するためには、弁護士に相談することをおすすめします。
遺産相続について弁護士ができる主なサポートは、以下のとおりです。
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(1)特別受益に関する法的な検討
特別受益の有無や金額は、法定相続分の計算に大きく影響を及ぼします。
一部の相続人が他の相続人の特別受益を指摘して、自分の相続分を増やすように主張して揉めてしまうのは、相続トラブルの典型的なパターンのひとつです。
弁護士は、特別受益に関して法的な検討を行い、生前贈与などの内容を適切に相続分へ反映させて、公平な遺産分割ができるようにサポートいたします。 -
(2)相続トラブルに対する最適な解決策の提案
相続トラブルに対しては、その内容や家庭の状況に応じて、オーダーメードに解決策を検討しなければなりません。適切な内容で合意することができれば、相続トラブルをスムーズに解決し、親族関係を円満に維持することができます。
弁護士は、依頼者や他の相続人からのヒアリングを通じて、問題状況を正確に把握し、その状況に応じた最適な解決策を提案します。 -
(3)相続手続き全般の代行
相続手続きでは、相続財産や相続人の調査・遺産分割・遺産の名義変更など、やるべきことが多岐にわたります。特にお仕事などでお忙しい方は、自力で相続手続きにすべて対応するのは非常に大変です。
弁護士にご依頼いただければ、相続手続き全般を代行し、依頼者の代理人として相続手続きを進めるため、労力や精神的な負担が大幅に軽減されるでしょう。
またベリーベスト法律事務所では、司法書士や税理士などの隣接士業も所属しており、不動産の相続登記や相続税・贈与税の申告などの手続きなど、ワンストップサービスで幅広いお悩みに対応が可能です。 -
(4)遺産分割協議・調停・審判などの対応
相続手続きにおいて最も重要といえる手続きが、遺産分割協議です。
遺産分割協議では、相続人間で遺産の分け方を話し合って決めます。しかし、特別受益などの論点について揉めてしまい、深刻な対立に発展するケースが少なくありません。
弁護士にご依頼いただければ、相続人の間に入って遺産分割協議をサポートいたします。
客観的な立場にあって、法律の専門的知見を有する弁護士が間に入ることにより、冷静かつ建設的な話し合いができるようになります。その結果、遺産分割協議が早期かつ円満にまとまる可能性が高まります。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判によって遺産分割の方法を決めます。調停や審判の手続きは専門的な側面が強く一般の方が自力で対応するのは大変です。弁護士は、調停・審判についても代理人として適切に対応します。
遺産分割のほかにも、遺留分侵害額請求の協議・調停・訴訟など、相続人同士の対立を解決するための手続きについては、すべて弁護士に代理人をご依頼いただくことが可能です。
相続トラブルにお悩みの方は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
孫への贈与は、原則として特別受益に当たりません。しかし、孫が代襲相続人である場合や、孫が被相続人と養子縁組をしている場合には、孫への贈与が特別受益に該当する可能性があります。
特別受益については、相続発生時に相続人同士が揉めてしまうケースがよくあります。弁護士のサポートを受けながら、できる限り相続トラブルを回避し、円満に遺産分割を終えられるように努めましょう。
ベリーベスト法律事務所 大分オフィスでは、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。特別受益など相続に関するトラブルにお悩みの方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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