保釈中に逃亡したらどうなるのか|逃亡のデメリットや時効について

2024年07月22日
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保釈中に逃亡したらどうなるのか|逃亡のデメリットや時効について

2022年に大分県内の裁判所で刑事裁判を受けた人のうち、勾留された状態で起訴された人は190人、そのうち保釈により身柄が解放された人は73人でした。

2023年5月の法改正により、保釈制度は大きく変わりました。中でも保釈中にGPSを装着させて行動を監視することが大きく報道されていますが、その他にも保釈中に逃亡した場合に処罰する規定なども新たに設けられています。

今回のコラムでは、法改正後の制度を踏まえて、保釈中に逃亡するとどうなるのかという点を中心に、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、「保釈中」とはどのような状態?

そもそも保釈とはどのような制度なのか、保釈中はどのような立場になるのか解説します。

  1. (1)保釈請求できるのは起訴された後

    保釈とは、身柄拘束された状態で刑事裁判を受ける被告人に認められる制度です。

    逮捕されてから身柄拘束が続く場合、以下の段階をへて裁判へと進みます。

    1. ① 逮捕(最大72時間)
    2. ② 被疑者勾留(最大20日間)
    3. ③ 起訴(刑事裁判)の決定
    4. ④ 被告人勾留(初回のみ2か月間、以後、裁判の終結まで1か月ごとに更新)


    ①②の逮捕や被疑者勾留の段階では、保釈を請求することはできません。③で起訴が決定されて被告人になった段階で、ようやく保釈請求が可能になります

    保釈とよく似た制度に「勾留執行停止」がありますが、これは病院での治療が必要な場合や、近親者の葬儀に参列するなどの特別な理由がある場合に、一時的に釈放される制度です。

    勾留執行停止は、被疑者勾留と被告人勾留のいずれの段階でも認められることがありますが、釈放されるのは、治療などに必要とされる期間に時間単位で限定されます。

  2. (2)保釈されるとどのような立場になる?

    完全に自由の身になるわけではないのが保釈中の立場です。

    たとえば、保釈が許可されて釈放されても、勾留の効力がなくなるわけではなく、仮に保釈が取り消されたり、効力を失ったりすると、直ちに勾留の状態に戻ることになります。

    保釈が効力を失うのは、判決で死刑または禁錮刑や懲役刑の実刑が言い渡された場合です。実刑判決が言い渡されると、公判期日終了後に身柄が拘束されることになるので、判決の日には着替えや洗面道具を持参して出廷するよう、弁護人からアドバイスされることもあると思います。

    一方、無罪判決もしくは執行猶予付きの懲役刑または禁錮刑、罰金刑の有罪判決になった場合は、勾留が効力を失うので、保釈中の立場からも解放されます。保釈が取り消されたり、保証金が没取されたりするケースについては次章で解説します。

2、保釈中に逃亡すると刑事裁判はどうなる?

保釈中に逃亡した場合、保釈が取り消されるなど裁判手続上の不利益に加えて、新たに犯罪が成立することになります。本章では、保釈取り消しなど手続上の不利益について解説します。

  1. (1)保釈中の逃亡は保釈取り消し事由になる

    保釈中に逃亡して所在が分からなくなった場合や、逃亡のおそれがあると疑う理由がある場合は、保釈が取り消されることがあります。

    保釈取り消し決定の決定書は、保釈の際に居住すべき場所として指定された住居に郵送されますが、決定書を受け取っていなくても、決定の効力に影響はありません。

    なお、逃亡の意思がなくても、以下にあてはまる場合は保釈が取り消されることがあります。

    1. ① 正当な理由がなく公判期日に出廷しない場合
    2. ② 罪証を隠滅しまたは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合
    3. ③ 保釈の際に指定された住居(制限住居)を離れて、正当な理由がなく指定された期間を超えて制限住居に戻らない場合(事前に裁判所の許可を受けた場合を除く)
    4. ④ 被害者や目撃者などの証人やその親族への加害行為または畏怖させる行為をしたとき
    5. ⑤ 保釈中の生活状況等について裁判所から報告を命じられたのに、その報告を怠ったとき
    6. ⑥ その他、裁判所が定めた条件に違反したとき


    このうち、新たな規定により処罰の対象になるのは、①と③の場合です。また、④の行為は、証人等威迫罪などの罪に該当し、処罰(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)される可能性があります。

  2. (2)保証金が没取されることがある

    保釈が取り消された場合、保釈の際に納付した保釈保証金の全部または一部が没取されることがあります。

    また、保釈の際に監督者が選任され、監督保証金を納付してもらっている場合、逃亡などにより保釈が取り消されると、監督者が納付した保証金の全部または一部が没取されることもあります。

  3. (3)裁判所の心証を悪くして裁判が不利になる可能性も

    保釈中に逃亡すると、裁判官に「法律を守る意識に乏しい」とか「責任逃れをしている」というような心証を持たれてしまうことは避けられないでしょう。

    その結果、有利な主張や弁解をしても、採用してもらえない可能性が高くなります

  4. (4)逃亡しても時効により処罰を免れる可能性はほとんどない

    刑事事件に関する時効は、犯罪行為が終わってから進行する「公訴時効」と、刑の言い渡しが確定してから進行する「刑の時効」があります。

    公訴時効は、起訴により時効が停止するので、起訴後に逃亡しても公判手続が進行しないだけで、時効が完成することはありません

    また、刑の時効は、有罪判決により刑が言い渡されたときから進行します。なお、公訴時効も刑の時効も、国外にいる間は時効が進行しません。

3、保釈中に逃亡した場合等の処罰規定

保釈中に逃亡などをする行為を処罰する規定が新たに設けられ、2023年11月15日に施行されています。

どのような行為が新たに処罰の対象になるのか、新たな罪が加わることにより刑の重さはどうなるのかについて解説します。

  1. (1)新たに処罰の対象となる行為

    保釈中に逃亡した場合に、処罰の対象になるのは以下の行為です。

    1. ① 保釈により釈放された後に、正当な理由がなく公判期日に出廷しない場合
    2. ② 保釈の際に指定された制限住居を離れて、正当な理由がなく指定された期間を超えて制限住居に戻らない場合(事前に裁判所の許可を受けた場合を除く)
    3. ③ 保釈が取り消され、または失効した後、検察官から出頭を命じられて、正当な理由がなく出頭しない場合


    これらの罪の法定刑は、いずれも「2年以下の拘禁刑」です。拘禁刑とは、現行の懲役刑と禁錮刑を一体化した刑で、2025年6月1日以降に犯した場合に適用されますが、それ以前に上記の罪を犯した場合は、懲役刑が科されます。

  2. (2)刑の重さはどうなる?

    保釈中に逃亡した罪で処罰される場合、受けている裁判の罪の刑と合わせて刑の重さが決められることになります。

    このように、別の機会に2個以上の罪を犯したケースは「併合罪」といわれ、最も重い罪の刑の上限が1.5倍(ただし刑の上限を合算した範囲内)に加重されることになります。

    たとえば、詐欺罪の裁判で保釈中に逃亡したケースでは、次のようになります。

    • 詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」、逃亡の罪の法定刑は「2年以下の懲役(拘禁刑)」
    • 重い詐欺罪の刑の上限の1.5倍は「懲役15年」、両罪の刑の上限を合算すると「懲役12年」なので、「12年以下の懲役」の範囲で両罪の刑が決められる


    実際の量刑相場では、法定刑の上限で処罰されるケースはあまりありませんが、執行猶予が獲得できそうな事案でも、逃亡した罪が加わることにより実刑になることは大いに考えられます。

4、保釈中のGPS装着命令などその他の改正点

ここまで、保釈中に逃亡したケースを中心に解説してきましたが、法改正により新たに設けられた主な制度の要点をまとめて解説します。

  1. (1)報告命令制度

    保釈が許可される際、保釈の指定条件として、保釈中の生活状況について報告することを命じることができる制度が新設されました。

    報告のために、裁判所が指定した日時に出頭を命じられることもあります。報告を怠った場合や、虚偽の報告をした場合は、保釈が取り消され、保証金が没取されることもあります。

  2. (2)監督者制度

    保釈の指定条件として、雇用主や近親者など、保釈中の生活状況を監督できる立場にある人を、その同意を得て監督者に選任することができる制度が新設されました。

    監督者になると、監督保証金の納付や、被告人の生活状況等の報告、公判期日などに被告人と共に出頭する義務を負うことになります。

    従来は、保釈された被告人の監督等を誓約する「身元引受人」を立てるケースが一般的でしたが、被告人が保釈条件に違反しても法的責任を負うことはなく、実効性がないという指摘もありました。

    そこで、従来の身元引受人に加えて、被告人の監督に法的責任を伴う監督者制度を設けたとされています。

  3. (3)一審で実刑判決を受けた後の保釈

    一審で実刑判決が言い渡されると、保釈されていた場合は保釈が失効して身柄を拘束されますが、再度保釈(再保釈)を請求することも可能です。

    ただし、実刑判決を受けたことで逃亡のおそれの程度が高まることから、原則として、身柄拘束による不利益の程度が著しく高い場合でなければ保釈が許可されないことが明文化されました。

    再保釈が許可される場合は、一審判決前の保釈よりも保証金が高額になるのが一般的ですが、再保釈中に逃亡した場合は、必ず保釈が取り消され、保証金も没取されることになります。

    なお、実刑判決が言い渡された場合や、または罰金刑に処せられて罰金を完納することができないおそれがある場合は、裁判所の許可を受けなければ海外に出国できない制度も新設されています。

    この出国制限の規定は、2025年5月までに施行される予定です。

  4. (4)GPSによる位置情報取得制度

    保釈中に国外へ逃亡することを防止するために必要があると認められた場合は、GPS端末を身体に装着することを命じる(位置測定端末装着命令)ことができる制度が、2028年5月まで施行される予定です。

    この命令を受けた場合、以下の事項を順守しなければなりません。

    1. ① 空港や港湾など、裁判所が指定した所在禁止区域内に立ち入らないこと
    2. ② GPS端末を身体に装着し続けて、端末を損壊したり通信に障害を与えたりする行為をしないこと
    3. ③ GPS端末などの作動に必要な充電などの管理を行うこと
    4. ④ GPS端末や通信に障害が生じたときは、裁判所にその旨を報告すること
    5. ⑤ 裁判所に命じられた場合は、指定された日時、場所に出頭すること


    これらの事項に違反すると、以下のペナルティーを受けることがあります。

    • 保釈の取り消しや保釈保証金の全部または一部の没取
    • 強制的に裁判所などへ連行される勾引
    • ①②に違反した場合は「1年以下の拘禁刑」
    • ④⑤に違反した場合は「6か月以下の拘禁刑」


    海外では、腕や足首に装着するGPS端末により位置情報を取得する制度が取り入れられており、これらを参考にして端末やシステムの開発が進められる見込みです。

5、まとめ

保釈制度は、勾留された状態で刑事裁判を受ける被告人の身柄を解放するための制度ですが、保証金を納付したり、指定条件を順守したりする義務があります。

保釈中に逃亡すると、保釈が取り消されて保証金を没取されることがあるほか、逃亡する行為自体が罪に問われることもあります。

保釈中に逃亡しても、時効により処罰を免れることはほとんど不可能です。保釈中は、裁判所に指定された条件を守り、不明な点があれば弁護人にアドバイスを求めるなどして、慎重に行動することが求められます。

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