交通事故で通院を5回したとき受け取れる一時金は? 相場と計算方法を解説
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令和6年に大分県で発生した交通事故は2125件で、死者は28名、負傷者は2619名でした。
人身傷害保険などの被保険者が交通事故に遭った場合、「5回以上通院する」など一定の要件を満たせば、保険会社から一時金を受け取れる可能性があります。ただし、一時金は少額であり、交通事故で被害者が負った損害の全額を補填(ほてん)するには遠く及びません。交通事故の被害について適正な金額の補償を受けるためには、加害者側に対して損害賠償を請求する必要があります。
本コラムでは、通院5回以上などの要件がある交通事故の一時金や、交通事故被害に関する損害賠償の主な項目や計算方法などについて、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故の「一時金」とは?
交通事故の人身傷害保険(または搭乗者傷害保険)に加入している方には、一定の要件を満たすことで「一時金」が支払われることがあります。
たとえば東京海上日動の人身傷害保険では、交通事故によりケガをして5日以上入通院した場合に、1名当たり10万円または20万円が支払われることがあります。
人身傷害保険の一時金の要件としては、上記の例のように「通院5回(5日)以上」が定められているケースが多いですが、実際の要件は保障内容によって異なります。
また、金額は10万円から20万円程度が多いですが、こちらも保障内容によってさまざまです。
一時金を受給する際には、ご自身が加入している人身傷害保険の保障内容を確認してください。
2、交通事故被害に関する損害賠償の主な項目・計算方法
人身傷害保険の一時金だけでは、交通事故によって被害者が負った損害を補填することはできません。
被害の程度にふさわしい、適正な金額の補償を受けるためには、交通事故によって生じた損害額を漏れなく積算したうえで加害者に請求することが必要になります。
以下では、交通事故被害に関する損害賠償の主な項目と、それぞれの計算方法について解説します。
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(1)治療費・装具器具購入費
交通事故によるケガの治療に要した費用は、その全額が損害賠償の対象となります(もっとも、相当因果関係等の要件を充足することが必要です)。
また、装具や器具の購入費用についても、実費全額が損害賠償の対象となります(こちらについても、相当因果関係等の要件を充足することが必要です)。治療費の例
- 診療費
- 入院費
- 手術費
- 薬剤費
装具器具購入費の例
以下の装具・器具の購入費
- 義歯
- 義手
- 義足
- 眼鏡
- 車いす
- コルセット
- サポーター
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(2)入通院に関する費用
交通事故のケガを治療するための入院・通院に関する費用も、損害賠償を請求できる対象となります。
入通院に関する費用としては、主に、通院交通費や入院雑費、付添費用などがあります。① 通院交通費
通院の際に要した交通費です。
電車・バスなどの公共交通機関については実費、自家用車については走行距離に応じたガソリン代が損害賠償の対象となります。
② 入院雑費
入院中に生じる日用品等の購入費です。
日額1500円が相場です(弁護士基準)。
③ 付添費用
被害者の入通院に付き添う際の費用です。
家族が付き添う場合には、入院付き添いで日額6500円、通院付き添いで日額3300円が相場です(弁護士基準)。
また、職業付添人に依頼した場合は、実費相当額が認められます。 -
(3)休業損害
交通事故のケガを治療するために仕事を休んだ場合、休業によって失われた収入を損害とみなして、それに対する賠償を請求することができます。
休業損害の計算方法は、以下のとおりです。休業損害=1日当たりの基礎収入×休業日数
※1日当たりの基礎収入
- 会社員の場合:事故前3か月の給与合計額÷90日または勤務日数
- 自営業者の場合:事故前年度の年間所得÷365日
- 専業主婦(主夫)の場合:賃金センサスの女性労働者の全年齢平均給与額÷365日
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(4)入通院慰謝料
交通事故のケガを治療するために入院や通院を強いられたことに伴う精神的損害については、入通院慰謝料として、損害賠償を請求することができます。
入通院慰謝料の計算方法は後述します。 -
(5)後遺障害慰謝料
交通事故のケガが完治せず、後遺症が残ったことによる精神的損害については、後遺障害慰謝料として損害賠償を請求できます。
後遺障害慰謝料の金額の目安は、損害保険料率算出機構が認定する後遺障害等級に応じて、以下の通りになっています。後遺障害等級 後遺障害慰謝料(弁護士基準) 1級 2800万円 2級 2370万円 3級 1990万円 4級 1670万円 5級 1400万円 6級 1180万円 7級 1000万円 8級 830万円 9級 690万円 10級 550万円 11級 420万円 12級 290万円 13級 180万円 14級 110万円 -
(6)逸失利益
交通事故のケガが完治せずに後遺症が残った場合、被害者はその部位や程度に応じて「労働能力の全部または一部を失った」とみなされます。
労働能力の喪失に伴い、将来得られなくなった収入については、逸失利益として損害賠償を請求することができます。
逸失利益の金額は、以下の式によって計算します。
また、労働能力喪失率は、損害保険料率算出機構が認定する後遺障害等級に応じて決まります。逸失利益=1年当たりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数(※)
(※)ライプニッツ係数:中間利息控除を行うための係数
後遺障害等級 労働能力喪失率 1級 100% 2級 100% 3級 100% 4級 92% 5級 79% 6級 67% 7級 56% 8級 45% 9級 33% 10級 27% 11級 20% 12級 14% 13級 9% 14級 5% ※死亡の場合は100%
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(7)物的損害(物損)
交通事故による車の破損などの物的損害(物損)についても、損害賠償を請求することができます。
具体的には、以下のような物損について、損害賠償を請求することができます。① 修理費・買替費用
車の修理費用の実費相当額、または中古車市場における車の評価額のいずれか低い方が損害賠償の対象となります。
② 代車費用
代車を借りるための実費相当額が損害賠償の対象となります(原則として、事故車と同等のグレードの代車費用のみが損害賠償の対象です)。
③ 車の評価損
事故車として中古車市場における評価額が下がった場合に、減少した評価額が損害賠償の対象となることがあります。
お問い合わせください。
3、通院日数に応じた入通院慰謝料|通院5回の場合の相場は?
交通事故の入通院慰謝料は、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)の別表Iまたは別表IIを参照して計算することが一般的です(弁護士基準)。
骨折などの重症時には別表I、むち打ち症などの軽症時には別表IIを用います。
別表I(骨折などの重症時)
| 入院期間 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 通院期間 | 0 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | 314 |
| 1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 | 318 |
| 2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 | 322 |
| 3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 | 326 |
| 4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 | 328 |
| 5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 | 330 |
| 6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 | 332 |
| 7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 | 334 |
| 8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 | 336 |
| 9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 | 338 |
| 10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 | |
| 11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 | 312 | 324 | 332 | ||
| 12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 250 | 298 | 314 | 326 | |||
| 13月 | 158 | 187 | 213 | 238 | 262 | 282 | 300 | 316 | ||||
| 14月 | 162 | 189 | 215 | 240 | 264 | 284 | 302 | |||||
| 15月 | 164 | 191 | 217 | 242 | 266 | 286 |
別表II(むちうち症、打撲、捻挫などの軽症時)
| 入院期間 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 通院期間 | 0 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | 204 |
| 1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 | 206 |
| 2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 | 207 |
| 3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 | 208 |
| 4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 | 203 |
| 5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 | 210 |
| 6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 | 211 |
| 7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 | 212 |
| 8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 | 213 |
| 9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 | 214 |
| 10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 | |
| 11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 | 193 | 199 | 204 | ||
| 12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 | 194 | 200 | |||
| 13月 | 120 | 137 | 152 | 162 | 173 | 181 | 189 | 195 | ||||
| 14月 | 121 | 138 | 153 | 163 | 174 | 182 | 190 | |||||
| 15月 | 122 | 139 | 154 | 164 | 175 | 183 |
たとえば、入院をせず、通院期間が1か月の場合の入通院慰謝料は、重症であれば28万円、軽症であれば19万円が目安となります。
4、交通事故の損害賠償請求を弁護士に依頼するメリット
交通事故の損害賠償を請求する際には、弁護士に相談することをおすすめします。
損害賠償請求を弁護士に依頼することも主なメリットは、以下のとおりです。
弁護士は、被害者に生じた損害を漏れなく把握したうえで、そのすべてを積算して損害賠償を請求することができます。
② 弁護士基準(裁判所基準)に基づく慰謝料を請求できる
弁護士に依頼すれば、過去の裁判例に基づき損害額を算定する「弁護士基準(裁判所基準)」に基づいた金額の慰謝料を請求することができます。
弁護士基準に基づく金額は保険会社の独自基準(自賠責基準・任意保険基準)よりも高額であるため、最終的に請求できる損害賠償の金額を増額させることができます。
③ 損害賠償を受け取れるタイミングについてアドバイスを受けられる
弁護士に相談すれば、示談交渉や訴訟手続きなどの見通しをふまえて、損害賠償を受け取れるタイミングについてアドバイスを受けられるため、資金計画の参考になるでしょう。
交通事故の被害に遭ってしまった方は、お早めに、弁護士までご相談ください。
5、まとめ
人身傷害保険などに加入している方が交通事故に遭った場合、通院5回以上などの要件を満たせば一時金を受け取れることがあります。
ただし、一時金は少額であるため、事故によって受けた損害を補填(ほてん)するためには加害者に対する損害賠償請求が必要です。
ベリーベスト法律事務所では、交通事故の損害賠償請求などに関するご相談を承っております。
交通事故の被害に遭われた方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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