実家を相続しても住まないのが確定しているとき、検討すべきこと

2023年08月08日
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実家を相続しても住まないのが確定しているとき、検討すべきこと

近年、居住者が亡くなったり、介護のために転居したりすることが原因で発生した空き家の増加が社会問題となっています。

総務省が平成30年に実施した調査によれば、大分市には利用される見込みのない空き家が9100戸存在していました。令和の時代に入ってからは、空き家の数はさらに増え続けていると予想されます。

政府としてもこのような状況を憂慮しており空き家対策に本腰を入れており、平成27年5月には「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、その後にも空き家対策のために法律や税制が相次いで改正されてきました。

本コラムでは、相続する実家が空き家になることがわかっている場合に検討すべき対処法について、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。

1、実家を空き家のまま維持した場合に起こり得ること

相続する実家が空き家になることがわかっていても、「将来に利用するかもしれないから、とりあえずそのまま維持したい」と考える人は多いでしょう。
しかし、空き家を保有することには、以下のようなリスクが存在する点に注意してください。

  1. (1)近隣への迷惑・被害|所有者責任

    人が長期間居住していない住宅は劣化が進みやすく、漏電による火災や台風・地震などの災害による破損や倒壊、また草木の繁茂に害虫や鳥獣の繁殖などが起きやすくなります。
    さらに、不審者が出入りしたり、廃棄物の投棄場所にされたりして、地域の平穏や景観を乱すといった悪影響が生じる可能性もあります。

    空き家の管理が不十分だと近隣の迷惑になるだけではなく、損害賠償が関わる問題に発展するおそれもあります
    建物や塀などの所有者は、その管理や保存が十分でないために他人に損害を与えてしまったら、過失がない場合でも賠償の義務を負わなければなりません。
    平成30年6月に発生した大阪北部地震ではブロック塀の倒壊による犠牲者が出ていますが、直接の原因は地震であった事故について、所有者の責任が問われたようです。

  2. (2)固定資産税や管理の負担

    土地や建物に関する固定資産税や都市計画税は、毎年の1月1日、現在の所有者が納税しなければなりません。

    空き家の状態であっても固定資産税などが課税されることに変わりはなく、さらに適切な管理がされていない場合には、固定資産税が大幅に高くなる可能性があります
    また、空き家を管理するだけでも、さまざまな費用が発生してしまいます。

  3. (3)「特定空き家」に認定されるとペナルティーも

    冒頭で紹介した「空家等対策の推進に関する特別措置法」では、適切に管理されていない空き家を自治体が「特定空き家」と認定して、是正のための指導や命令をする規定が設けられています。

    特定空き家とされるのは、以下のいずれかに当てはまる空き家です(同法2条2項)。

    • 著しく保安上の危険となるおそれがある状態:倒壊など
    • 著しく衛生上有害となるおそれがある状態:アスベストの飛散、悪臭など
    • 著しく景観を損なっている状態:ごみや廃棄物など
    • 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態:木や竹の枝の越境、動物のふん尿など


    特定空き家に認定されると、助言、指導、勧告、命令と段階を追って手続きが進み、以下のようなペナルティーを受ける可能性があります

    • 「勧告」まで手続きが進むと、固定資産税・都市計画税の住宅用地の特例措置が適用されなくなり、土地の評価額が最大6分の1まで減額される措置が受けられなくなる
    • 「命令」に従わない場合は、50万円以下の過料に処せられる
    • 「行政代執行」により強制的な改善措置がとられて、その費用の負担が命じられる

2、実家が空き家になった場合の相続前の対策

以下では、実家が空き家になった場合の対処方法について、相続対策の観点も交えて解説します。

  1. (1)空き家対策をしておくことのメリット

    親が施設に入るなどして実家が空き家になった場合に、いずれ発生する相続に向けて空き家対策をしておくことには、次のようなメリットがあります。

    ① 時間をかけて処理することができる
    実家が空き家として放置される原因には、愛着のある家を「処分」することへの心理的な抵抗感もあるようです。
    また、空き家を保有するコストやリスクは、家の老朽化が進んだり、近隣から苦情が寄せられたりするまで認識されにくい面もあり、対策の必要性について理解が得られるまで時間が必要になるという側面もあります。

    しかし、必要に迫られて、放置していた実家を急に売却する必要が生じたとしても、すぐに買い手が見つかるとは限らず、安く買いたたかれる可能性もあります
    大分県内の多くの自治体では「空き家バンク」や解体やリフォームのための助成金など、空き家対策を支援する施策を実施していますので、これらを有効に活用しながら余裕をもって処分を進めるようにしましょう。

    ② 親の負担でリフォームや解体をすると節税効果になる可能性も
    現状では買い手や借り手が見つからないような物件については、リフォームしたり、解体して更地にしたりすることも選択肢となります。

    リフォームや解体を親の生前に行い、その費用を親に支出してもらえれば相続財産が減少するため、相続税を節税できる可能性もあります。

    ③ 相続の対象となる財産を把握しておくことができる
    実家の管理や整理に意識を向けることには、いずれ相続することになる親の資産について詳細を把握しやすくなる、という効果もあります。

    相続が発生した後から、遺品を整理したり相続財産を調査したりしようとすると大きな労力が必要になりますが、親の生前からこれらの作業を行っておくことで、いざ相続が発生した場合にもスムーズな対応ができるでしょう。
  2. (2)空き家の対処方法

    以下では、実家が空き家になった場合の具体的な対処方法を解説します。

    ① 売却する
    空き家を売却できれば、固定資産税などの税負担や管理コストから解放されます。
    また、分割しにくい不動産を現金化することで、遺産分割がスムーズに進行しやすくなるというメリットもあります。

    ② 賃貸する
    空き家を他人に貸すことのメリットは、賃料収入によって固定資産税などの維持コストが補塡(ほてん)されるという点です。
    ただし、賃貸人(貸主)の義務として、賃借人(借主)に物件を使用収益させるための管理コストが発生してしまいます
    借り手が見つからなくなったり滞納されたりすることで賃料収入が途絶えた場合のリスクも、考えておく必要があるでしょう。
    また、相続人のうち誰が実家の所有権や賃貸人の地位を相続するのかについても揉めてしまわないように、親に遺言書を作成してもらうなどの対策をしておく必要があります。

    ③ 更地にする
    実家を更地にしてしまえば、土地の買い手や借り手が見つかりやすくなります。
    ただし、更地のまま所有していると、固定資産税について住宅用地の特例措置が受けられなくなり、税負担が重くなる点に注意してください

    ④ 寄付・贈与する
    自治体や近隣の方にとってニーズがある場合には、実家や土地を、自治体や近隣の方に無償で寄付したり贈与したりできる可能性があります。
    今後も実家や土地が必要となる見込みがなく、売却したり賃貸したりすることもおっくうな場合には、寄付できるかどうか自治体などに相談してみるといいでしょう。

3、空き家を相続した場合の相続手続き

空き家を所有していた方が亡くなった場合には、まずは相続手続きを進める必要があります。

以下では、相続手続きの流れと、相続における空き家の対処法について解説します。

  1. (1)相続手続きの流れ

    相続が発生すると、次のような手続きを行うことになります。

    • 相続人の調査:戸籍を収集して相続権のある人を調査する
    • 相続財産の調査:亡くなった方の財産を調査する
    • 遺産分割協議:相続人全員の合意に至るまで誰が何を相続するのか話し合う
    • 名義変更:遺産分割により取得した財産の名義を変更する(相続登記、預貯金の解約など)
    • 相続税の申告・納付:原則として相続が発生してから10か月以内に行う必要がある


    近年は、相続法の改正が相次いでいます。
    遺産分割に事実上10年の期限が設けられたり、相続登記が義務化されたりするなど、相続は先送りできない問題になりました
    弁護士などの専門家のサポートを受けながら、速やかな解決を目指しましょう。

  2. (2)相続発生後の空き家の対処方法

    相続が発生すると、空き家は遺産分割が成立するまでは相続人全員が共有している状態になるため、相続人全員の同意がなければ、売却などによって空き家を処分することはできません。
    遺産分割などを行った後に、空き家の所有権を取得した相続人が、前章で紹介したような売却などの処分を行うことになります。

    なお、相続により取得した土地については、国が有償で引き取る制度が令和5年4月27日にスタートしています
    この制度を利用するためには多くの要件を満たす必要がありますが、空き家の買い手が見つからない場合や、相続したい優良財産がある場合には、最終手段として検討しておきましょう。

4、相続放棄するとどうなる?

空き家となった実家を利用する予定がなく、ほかに相続したい財産がない場合は、相続放棄をすることも選択肢となります。

以下では、相続放棄のメリットや、空き家の管理や処分に関する注意点について解説します。

  1. (1)空き家を相続放棄するメリット

    相続放棄は、亡くなった方の借金を相続したくない場合や、相続したくない財産がある場合によく利用される手続きです。
    相続放棄をすると、相続人ではなかったものと扱われるため、遺産分割など相続手続きに関与する必要がなくなり、空き家の固定資産税を納付する義務もなくなります。

    なお、相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時(通常は故人が亡くなった時)から3か月以内」に家庭裁判所で申述をする必要があります

  2. (2)相続放棄をすると実家は誰が管理する?

    以下では、相続人となるべき人全員が相続放棄をした場合に、誰が空き家の管理や処分をするのかについて解説します。

    ① 実家を「占有」していた場合のみ管理責任が残る
    相続放棄をした人が相続財産について負う責任については、令和5年4月1日に施行された法改正により大きく変更されています。
    従前は、相続放棄をしても他の相続人などへ引き継ぐまでは自分の財産と同等の注意をもって管理する責任があるとされていました。
    令和5年4月以降は、相続財産を占有していた場合に限って保存する義務を負うことになっています。
    「占有」とは、たとえば自分の住居として利用する意思をもって住んでいるような状態をいいます。
    つまり、空き家になっている状態であれば占有している人はいないことになるため、相続人となるべき人全員が相続放棄をすると、空き家を管理する人は誰もいないことになるのです

    ② 空き家を処分する方法は「管理人」を選任するしかない
    相続放棄により相続人がいなくなった財産は、亡くなった方の債権者など権利者の有無を確定させて、必要な清算を行う手続きをするまでは宙に浮いた状態となり、誰も処分することはできません。
    相続財産の清算は、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が行います。
    しかし、相続財産清算人の選任を申請するためには、数十万円から100万円以上の費用を用意する必要があります。
    なお、令和5年4月より所有者不明土地・建物管理制度がスタートしました
    所有者がわからなくなった土地や建物について、裁判所が管理人を選任して、その権限で管理や処分をしてもらえるという制度です。
    ただし、この制度を利用するためにも、相続財産清算と同様に数十万円単位の費用が必要です。
    空き家を相続放棄したとしても、近隣の方から苦情が寄せられるなどのトラブルが発生する可能性はあるでしょう。
    そのため、「空き家を処分するための費用を誰が負担するのか」という問題は、相続放棄をした後にも残るおそれがあるのです

5、まとめ

空き家はそのまま保有することにしても、所有者責任を問われるリスクがあったり、固定資産税や管理費のコストがかかったりします。
さらに、管理が十分でなければ「特定空き家」に認定されてペナルティーを受ける可能性もあります。
したがって、いずれ相続することになる実家が空き家になった場合は、できるだけ早い段階から対処しておくことをおすすめします
住宅を売却した際の譲渡所得に関する特例措置や各種助成金など、期限付きの支援策が利用できる場合もあるため、さまざまな選択肢を検討したうえで、適切な対応を目指しましょう。

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空き家の問題をはじめ、財産や遺産相続に関してお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください

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