過失傷害罪とはどのような罪なのか:定義や構成要件を解説
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令和3年12月、大分県臼杵市の県道で、付近の住宅から逃げた大型犬が女児を複数回かんで重傷を負わせる事件がありました。警察は、飼い主を過失傷害容疑で詳しく調べたそうです。
飼い犬が逃げ出して、女児をかんで大けがをさせてしまうなどということは、たとえ飼い主であっても想像していなかったでしょう。しかし、警察は飼い主に過失傷害の疑いをかけました。
「同じようなトラブルがあったときに、自分も捜査を受けることになるのか?」「刑罰を受けてしまうのか?」と、不安に感じる方もいるでしょう。
本コラムでは「過失傷害罪」とはどのような犯罪であるか、過失致死罪や重過失致死傷罪と過失傷害罪との違いについて、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。
1、「過失傷害罪」の定義や構成要件
新聞やテレビのニュースなどで「過失傷害罪」という罪名を見聞きする機会は多いでしょう。
過失傷害罪が適用される事案の多くが、思いがけない不注意やミスが原因であり、いつ、誰が加害者になってしまうのかもわからないようなものです。
以下では、過失傷害罪とはどのような犯罪であるのかについて、定義や構成要件などを解説します。
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(1)過失傷害罪の定義
過失傷害は、刑法第209条1項に定められている犯罪です。
「過失により人を傷害した者」を罰するものであり、誤って人にけがを負傷させてしまった場合に成立します。 -
(2)過失傷害罪が成立するための構成要件
過失傷害罪が成立するのは、「過失により人を傷害した」場合です。
「過失」とは、結果を予見し、その結果を回避する義務に反することを指します。不注意やミスを指すと考えればわかりやすいでしょう。
刑法第38条1項は「罪を犯す意思がない行為は罰しない」と定めています。罪を犯す意思がないとは、まさに「過失」のことです。
ただし、同条の但し書きには「法律に特別の定めがある場合はこの限りではない」とも明記されているので、過失傷害罪は刑法の基本的な考え方の特例として罰せられる犯罪だといえます。
刑法209条1項の「傷害」とは、人の生理的機能に障害を与える行為を指します。
ここでの「傷害」には、けがをさせるという意味だけではなく、病気を感染させる、失神させるといった行為も含み、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患を生じさせる行為も含まれうると解釈されています。
なお、過失傷害罪は、刑法第209条2項の定めによって「親告罪」とされています。
親告罪として規定されているため、被害者が刑事告訴しなければ、検察官は刑事裁判を提起できません。 -
(3)過失傷害罪の法定刑
過失傷害罪に対して法律が定めている刑罰は「30万円以下の罰金または科料」です。
懲役・禁錮・拘留は予定されていないので、刑務所へと収監されることはありません。
ただし、罰金・科料で済まされた場合も「前科」にあたり、のちの社会生活に悪影響を生じさせる可能性がある点に留意してください。
2、過失致死罪や重過失致死傷罪との違い
以下では、「過失致死罪」や「重過失致死傷罪」と過失傷害罪との違いを解説します。
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(1)過失致死罪とは?
過失致死罪は、刑法第210条に定められています。
過失によるものという点では過失傷害罪と共通していますが「人の死亡」が生じているという点で大きく異なる犯罪です。
傷害よりも重大な結果が生じているため、法定刑も「50万円以下の罰金」へと加重されます。 -
(2)重過失致死傷罪とは?
重過失致死傷罪は、刑法第211条後段に定められている犯罪です。
重大な過失によって人を死傷させた者を罰するものであり、傷害した場合は「重過失致傷罪」、死亡させた場合は「重過失致死罪」として区別されます。
過失傷害罪との大きな違いは、過失が重大か否かにあり、注意義務違反の程度が著しい場合が「重大な過失」に当たります。わかりやすく言えば、「わずかな注意を払えば、危険を察知することができ、結果発生を回避できたであろうと認められる場合」です。
たとえば、自転車を運転しながらの「ながらスマホ」は、重過失の典型です。
スマートフォンの画面を注視しながら自転車を運転していれば、前方への注意が散漫になり、歩行者などに接触する危険があることは容易に想像できるためです。
重過失は単なるミスや注意不足とはいえないため、法定刑も過失傷害罪と比べると格段に重い「5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金」が科されることになります。
3、業務上過失致死罪との違い
業務上過失致死傷罪とは、刑法第211条前段に定められている犯罪です。
業務において必要な注意を怠ったために人を死傷させた場合に成立する犯罪となります。
ここでいう「業務」は、法的には「社会生活上の地位にもとづき反復・継続しておこなう行為」と解釈されています。そのため、一般的な「仕事」に限られません。
営利性も問わないため、ボランティア活動やPTAなどの非営利活動も業務のひとつとされます。
法改正によって切り離されるまでは、自動車の運転ミスによる人身事故も、本罪の処罰対象でした。
業務にあたる行為には、通常よりも強い危険回避の義務が課せられるため、単なるミスや不注意では済まされません。
法定刑は、重過失致死傷罪と同じく、「5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金」となります。
4、傷害罪、傷害致死罪との違い
過失傷害罪と近い関係にありながらも、格段に厳しい刑罰が科せられる犯罪である、「傷害罪」や「傷害致死罪」について解説します。
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(1)傷害罪とは?
傷害罪は、刑法第204条に定められた犯罪です。
「人の身体を傷害した者」を罰するもので、過失傷害罪よりもはるかに重い「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」が定められています。
過失傷害罪と傷害罪は、いずれも「傷害した」という結果において同じです。
ただし、その原因が「過失」なのか、それとも「故意」なのかによって、扱いが大きく変わります。
傷害罪は「故意」を必要とする犯罪です。
ミスや不注意ではなく、「相手にけがをさせる」意思、あるいは「けがをさせる」という結果を望んでいないとしても「けがをさせても仕方がない」という意思が必要です。
自らの意思で重大な結果を生じさせていることから、過失傷害罪よりも重い罪となっています。 -
(2)傷害致死罪とは?
傷害致死罪は刑法第205条に定められています。
「身体を傷害し、よって人を死亡させた者」が処罰の対象で、法定刑は「3年以上の有期懲役」です。
故意に人を傷害し、その結果として相手を死亡させる犯罪なので、過失致死罪と比べると人を死亡させたという結果が同じでも重い罪となっています。
また、傷害罪としての故意があり、さらに相手の死亡に対しても故意がある場合は「殺意」の存在が認められるため、刑法第199条の殺人罪に問われることになります。
殺意があった場合は、たとえ相手を死に至らしめなかったとしても殺人未遂となり、「死刑または無期懲役、もしくは5年以上の懲役」という、厳しい刑罰が科せられるのです。
5、思いがけず容疑をかけられたら? 弁護士がサポートできること
冒頭で紹介した事例のように、ミスや不注意によって人を負傷させてしまう事態は、誰の身にでも生じる可能性があるものです。
たとえわざとけがをさせたわけではなくても、法律に照らすと「過失傷害罪」という犯罪が成立してしまうために、警察の捜査を受けることになるでしょう。
場合によっては、逮捕・勾留による身柄拘束を受けてしまい、刑事裁判で有罪判決を言い渡されてしまうおそれもあるのです。
ミスや不注意が原因で人を負傷させてしまったトラブルを穏便に解決したいと考えるなら、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)被害者との示談交渉を一任できる
被害者が存在する刑事事件を穏便な方法で解決する最善策が「示談」です。
被害者との示談が成立し、被害届の取り下げや刑事告訴の取り消しがあれば、警察・検察官が捜査を終結する可能性が高まります。
過失傷害罪は親告罪なので、刑事告訴が取り消されれば検察官は刑事裁判を提起できません。
ただし、加害者本人が被害者との示談交渉を行うのは、困難であることが多いものです。
強く憤っている被害者のなかには、加害者からの示談の申し入れをかたくなに拒む人も少なくありません。
弁護士に依頼すれば、被害者の感情に配慮しながら警戒心を解いて、穏便に交渉を進行することが可能になります。 -
(2)加害者にとって有利な処分が期待できる
過失傷害罪は、数ある犯罪のなかでも比較的に法定刑が軽い犯罪です。
ただし、捜査が進展すれば刑事裁判にかけられてしまい、刑罰が科せられて前科がつけば、解雇や退学といった不利益な処分を受けてしまう危険もあるので、軽視してはいけません。
弁護士のサポートがあれば、被害者との示談成立による事件の終結や、検察官へのはたらきかけによる不起訴処分、刑事裁判における減軽など、加害者にとって有利な処分を得られやすくなります。
6、まとめ
わざとした行為ではなく、ミスや不注意を原因とした行為であっても、人を負傷させてしまえば「過失傷害罪」が成立してしまいます。
法律の定めに照らせば犯罪であるため、警察が事件化すれば、逮捕・勾留による身柄拘束で社会から隔離されてしまったり、刑罰が科せられて前科がついてしまったりするといった事態になる可能性があるのです。
さまざまな不利益から身を守るためには、弁護士によるサポートが必要です。
大分県にお住まいで、思いがけず過失傷害罪の容疑をかけられてしまった方は、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスにご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています