受刑者には選挙権はある? 選挙の投票ができないケースと理由を解説
- その他
- 受刑者
- 選挙権
大分市内にある大分刑務所には、刑期が10年未満で犯罪傾向が進んでいない受刑者や無期刑および刑期が10年以上の犯罪傾向が進んでいない受刑者、禁錮を言い渡された受刑者が収容されています。
刑務所に収容されている受刑者のなかには「選挙が行われているときには投票に参加したい」と考える人もいるかもしれません。しかし、受刑者の選挙権には一定の制限がかけられているため、一般の方のように自由に選挙に参加することはできません。
本コラムでは、受刑者の選挙権が制限されるケースとその理由について、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。
1、受刑者に選挙権はあるのか
まず、そもそも受刑者に選挙権が認められているのかどうかについて解説します。
-
(1)選挙権とは
選挙権とは、国および地方公共団体の代表者を選挙によって選ぶことができる権利です。
日本国憲法でも認められている国民の権利であり、原則として、満18歳以上の日本国民であれば選挙権が得られます。
なお、選挙権を持っていたとしても、市区町村の選挙管理委員会が管理する選挙人名簿に登録されていなければ、実際に投票を行うことができません。
選挙人名簿は以下の要件を満たしていれば自動的に登録されるため、特別な手続きは不要です。- 住んでいる市区町村の区域内に住所があること
- 満18歳以上の日本国民であること
- 住民票作成日から引き続き3か月以上、当該市区町村の住民基本台帳に登録されていること
また、選挙人名簿に一度登録がなされると、死亡や国籍喪失などの事由が生じた場合を除いて永久に効力を有します。
-
(2)受刑者には選挙権は認められない
選挙権は18歳以上の日本国民であれば原則として認められる憲法上の権利ですが、一定の要件に該当する場合には、選挙権を失うことがあります。
公職選挙法11条1項2号では「禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者」については、選挙権が認められないと規定されています。
つまり、犯罪の種類を問わず、禁錮以上の刑で刑務所に服役している受刑者には選挙権がありません。
また、「受刑者の選挙権を制限する公職選挙法の規定は憲法上認められた選挙権を制限するから違憲である」という主張が争われた裁判でも、裁判所は、受刑者の選挙権制限は必要かつ合理的なものであるとして、合憲との判断を下しています(東京地裁令和5年7月20日判決)。
そのため、現行の公職選挙法の規定を前提とすると、受刑者は選挙で投票をすることができません。
2、選挙権の制限を受ける罪とは
公職選挙法では、禁錮以上の刑に処せられた受刑者以外についても、一定の犯罪を行った場合には選挙権が制限されることがある旨が定められています。
-
(1)公職中に収賄罪に処せられたことがある人
収賄罪とは、公務員が職務に関して賄賂を収受したり、賄賂の要求や約束をしたりした場合に成立する犯罪です。
選挙には「公務の執行」という側面があるため、公職中に収賄罪に処せられたことがある人は公務を的確に行うことができないと見なされて、選挙権の制限を受けることになります。
一般の犯罪に比べて秩序違反の程度が大きいため、公職中に収賄罪に処せられたことがある人は、実刑期間経過後5年間または執行猶予中の選挙権が制限されることになります。 -
(2)選挙、投票および国民審査に関する犯罪で執行猶予中の人
選挙や投票および国民審査に関する犯罪により、禁錮以上の刑に処せられて、刑の執行猶予中の人も選挙権が制限されることになります。
執行猶予の期間は、1年から5年の範囲とされています。
したがって、上記の犯罪により禁錮以上の刑に処せられ執行猶予となった人は、1年から5年間、選挙権の制限を受けることになります。 -
(3)公職選挙法違反により選挙権が停止されている人
公職選挙法に違反して罰金または禁錮以上の刑に処せられた人は、裁判の確定日から5年間または10年間、選挙権が停止されることになります。
また、公職選挙法の違反に関して執行猶予中の人も選挙権が停止されます。 -
(4)政治資金規正法違反により選挙権が停止されている人
「政治資金規正法」とは、政治活動の公明および公正を確保して民主政治を健全に発達させることを目的として、政治団体や公職の候補者の政治活動に一定の規制を加える法律です。
政治資金規正法が定める一定の罪を犯して、罰金または禁錮の刑に処せられた人は、裁判の確定日から5年間または執行猶予期間中の選挙権が停止されることになります。
そのため、政治資金規正法違反により選挙権が停止されている人には、選挙権は認められません。
3、他にも選挙の投票ができなくなるケースはある?
以下では、犯罪に関する以外の理由から選挙の投票ができなくなる場合について解説します。
-
(1)転居先や転居時期によっては投票ができなくなることもある
選挙権がある人でも、実際に投票に参加するためには、市区町村の選挙管理委員会が作成する「選挙人名簿」に登録されなければなりません。
また、選挙人名簿への登録の条件として、市区町村に住民票を移して3か月以上居住するという条件があります。
そのため、転居時期によっては、投票に参加できない可能性があります。
なお、同一市区町村内での転居であれば選挙人名簿の登録が引き継がれるため、市区町村長および議員選で投票に参加することが可能です。
また、同一都道府県内の転居であれば、知事選や都道府県議選で投票に参加することができます。 -
(2)成年被後見人の選挙権制限は撤廃された
「成年被後見人」とは、精神上の障害により判断能力を欠いているとして、家庭裁判所の後見開始の審判を受けた人のことをいいます。
加齢による認知症や精神障害などの理由により、物事を判断する能力が欠如した場合には、申し立てにより、成年後見人が選任されます。
このような成年被後見人は、判断能力を欠くと認定されていることから政治への参加を期待することができないとして、以前は、選挙権が認められていませんでした。
しかし、「成年被後見人であっても自分の意思を表明することは可能であるのだから、一律に選挙権を制限するのは違憲である」との声があったことから、平成25年の法改正によって成年被後見人にも選挙権が認められるようになりました。
成年後見人やその家族などが本人に代わって投票をすることはできませんが、代理投票や病院・老人ホームでの不在者投票制度により、現在では成年被後見人も政治に自分の意見を反映させることが可能になっています。
4、刑事事件化したら弁護士を依頼すべき理由
刑事事件の当事者として捜査機関から嫌疑をかけられている場合には、速やかに弁護士に相談してください。
-
(1)有利な処分獲得の可能性が高くなる
犯罪を行い、実刑判決を受けることになれば、受刑者として選挙権が制限されてしまいます。しかし、有罪判決であっても、罰金刑であったり、執行猶予付きの判決であったりすれば、一部の選挙犯罪を除いて、選挙権の制限を受けることはありません。
憲法上保障されている大切な選挙権が制限されることがないようにするためにも、刑事事件の当事者になったら、早めに弁護士に依頼して、有利な処分獲得に向けた弁護活動を行ってもらうことが大切です。 -
(2)被害者との示談成立の可能性が高くなる
被害者がいる犯罪では、被害者との示談交渉が成立するかどうかによって、その後の処分の重さが変わってきます。
加害者に対して恐怖心や恨みなどを抱いている被害者と加害者本人が示談交渉を行うのは容易ではありません。
弁護士であれば、加害者に代わって被害者と示談交渉を行うことができるため、被害者としても安心して交渉のテーブルにつくことができ、示談を成立させやすくなります。 -
(3)逮捕中のサポートができるのは弁護士だけ
犯罪の嫌疑をかけられて、逮捕されてしまうと、警察の留置施設に身柄が拘束されることになります。
逮捕中は、家族であっても面会をすることはできません。
逮捕中に面会ができるのは弁護士だけであるため、大切な家族が逮捕されてしまったという場合にはすぐに弁護士に連絡して、被疑者本人との面会を依頼してください。
弁護士であれば、捜査機関からの取り調べに対するアドバイスを行うことができるため、ひとりで不安な状態にある被疑者の不安も解消されるでしょう。
5、まとめ
犯罪の種類を問わず、禁錮以上の刑に処せられた受刑者は、選挙権が制限されます。
また、一部の選挙犯罪については、刑期を終えた後も一定期間選挙権が制限されます。
憲法上認められた大切な権利である選挙権に制限を受けないようにするためには、捜査段階および公判段階で弁護士のサポートを受けることが不可欠です。
捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられているという方は、ベリーベスト法律事務所まで、お早めにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています