会社から「辞めてくれ」と言われたときの、法律的な対処法

2022年07月26日
  • 不当解雇・退職勧奨
  • 会社から辞めてくれと言われたら
会社から「辞めてくれ」と言われたときの、法律的な対処法

大分県が公表している労働相談状況に関する統計資料によると、令和2年の労働相談件数は、1516件でした。相談内容としては、労働時間、休暇・休日が最も多く、退職・退職金、解雇・退職勧奨に関する相談も上位を占めています。

上司から「会社を辞めてくれ」などと言われてしまった方のなかには、怒りや失望などから「ならば辞めてやる」と考えて、勢いで退職届や退職合意書にサインをしてしまう方もおられます。

しかし、よく考えずに退職届や退職合意書にサインをしてしまうと不当解雇であったとしてもそれについて争うことができなくなり、さまざまな不利益を受ける可能性があります。そのため、たとえ会社から「辞めてくれ」と言われたとしても、すぐに応じるのではなく、慎重に対応することが大切です。

本コラムでは、上司や会社から「辞めてくれ」と言われた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。

1、辞めてくれと言われても退職届にサインをしない

会社から「辞めてくれ」と言われても、すぐに退職届や退職合意書にサインをしてはいけません。退職届や退職合意書にサインをしてしまうことには、以下のようなデメリットがあるからです。

  1. (1)辞めるかどうかは労働者の自由

    会社から「辞めてくれ」と言われて退職届や退職合意書へのサインを求められる状況は、「退職勧奨」が行われているといえます。
    退職勧奨とは、会社が労働者に対して辞職を勧める行為をいいます。退職勧奨では、会社は労働者を強制的に退職させることはできず、会社を退職するかどうかは労働者が自由な意思で決めることができます。

    これに対して、解雇とは、使用者の一方的な意思によって労働者との労働契約関係を終了させる行為であり、労働者に解雇に応じるかどうかの決定権がない点で退職勧奨とは区別されます。
    そのため、会社から退職勧奨を受けた場合において会社を辞めるつもりがないのであれば退職届や退職合意書にサインをしてはいけません

  2. (2)不当解雇を争うことが難しくなる

    退職勧奨は、解雇の前段階として穏便に労働者に辞めてもらうために行われることもあります。退職勧奨に応じるかどうかは労働者が自由に決めることができますが、退職勧奨に応じないと後日会社から解雇される可能性もあります。
    しかし、法律上会社が労働者を解雇する場合には、厳格な要件を満たさなければならず、要件を満たさない解雇については、すべて無効となります。

    解雇理由に納得がいかない場合には、不当解雇として争うことによって解雇の効力を否定することができる場合もあるのです。
    しかし、退職届や退職合意書にサインをしてしまうと、労働者が自らの意思によって会社を辞めたという証拠になってしまいます
    そのため、後日不当解雇であるとして争おうとしても「納得して退職したはずだ」、「解雇ではなく合意退職だ」などと言われてしまい、不当解雇として争うことが困難になってしまうおそれがあるのです。

2、退職勧奨の証拠を集める

会社から退職勧奨を受けた場合には、退職勧奨の態様によっては、違法な退職勧奨となる可能性もあります。

  1. (1)違法な退職勧奨とは

    退職勧奨は、退職するかどうかが労働者の自由な意思に委ねられている限りそれ自体が違法になることはありません。しかし、労働者が退職を拒絶しているにもかかわらず、執拗(しつよう)に退職を求めてきたり、「退職に応じない場合に不利益を課す」と脅してきたりするような場合には、違法な退職勧奨になることもあります。

    このような違法な退職勧奨に応じて退職をしてしまったとしても、退職の意思表示には瑕疵(かし)があることになりますので、強迫や錯誤による取り消しを主張することによって退職自体を争うことができる場合があります。
    退職の効力が否定された場合には、職場の復帰が認められますし、退職後の賃金についても支払われることになります。また、違法な退職勧奨によって精神的苦痛を被った場合には、会社に対して慰謝料を請求することが可能です。

  2. (2)退職勧奨の違法性を主張するには証拠が不可欠

    違法な退職勧奨を受けたとして慰謝料や退職の無効を求めるためには、退職勧奨が違法であったことを証明するための証拠が不可欠となります。退職勧奨に応じた退職は、客観的には合意退職という形をとりますので、労働者の側から違法な退職勧奨だと主張したとしても会社側は「そんなことは言っていない」、「納得して退職したはずだ」などと反論されてしまいます。そのため、労働者の側で退職勧奨が違法であったということを証明していかなければならないのです。

    なお、違法な退職勧奨を立証するための証拠としては、以下のようなものが挙げられます。

    • 退職勧奨の面談時の録音データ
    • 会社から提示された書類やメール
    • 退職勧奨を拒否した際のメールや書面


    どのような証拠があれば足りるのかについては、具体的な状況によって異なってきます。ご自身で判断することができないという場合には、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。

3、どうしても辞めたくないときの対応法

会社から「辞めてくれ」と言われたとしても、会社を辞めるつもりがない場合には、以下のような対応をとるようにしましょう。

  1. (1)退職に応じないことを明言する

    退職勧奨は、あくまでも会社からの退職のお願いに過ぎません。退職するかどうかについては、労働者が自由に決めることができますので、退職するつもりがない場合には、会社に対して、はっきりと「辞めるつもりはありません」と伝えることが大切です。執拗な退職勧奨は違法になりますので、労働者の側からはっきりと退職に応じる意思がないことが明示されれば、それ以上の退職勧奨は行われなくなるといえるでしょう。

    会社から執拗に退職勧奨がなされるという場合には、退職勧奨を拒否したということを証明するためにも、口頭ではなくメールや書面によって退職を拒否することを伝えるということも検討しましょう。

  2. (2)退職届や退職合意書にはサインをしない

    退職する意思がない場合には、会社から退職届や退職合意書にサインをすることは絶対にしてはいけません。これをしてしまうと、合意により退職をした証拠になってしまいますので、後日、退職勧奨の違法性や不当解雇を争うのが困難になってしまいます。

    労働者のなかには、退職勧奨に応じるかどうかの自由があることを知らずに、「辞めてほしい」と言われると、応じなければいけないものだと誤解して「わかりました」などと言ってしまう方もおられます。
    しかし、口頭であっても退職に応じてしまうと、後日不利な立場になることがあります。どのように対応すればよいかわからないときには「少し考えさせてください」などと言って、その間に弁護士に相談をするとよいでしょう。

4、辞めてもいいが不利益は回避したい場合

もともと会社を辞めようとした方は、退職勧奨に応じて退職することも選択肢の一つとなります。ただし、退職勧奨に応じて退職する場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)退職条件の交渉をする

    退職勧奨に応じて退職することは、解雇の無効を争われるリスクがないという点で会社にもメリットがあります。そのため、もともと会社を辞めようと考えていた方であっても、すぐに退職勧奨に応じて会社を辞めるのではなく、退職条件の交渉を行うようにしましょう。

    会社としても「退職勧奨で退職をした」という扱いにしたいため、退職金の上積みや特別手当の支払いに応じてくれる可能性があります。すぐに退職に応じてしまうと、これらの有利な条件を引き出すことができませんので、粘り強く交渉をすることが重要になります。

  2. (2)離職用の退職理由を確認する

    退職勧奨に応じて退職する場合には、離職票の退職理由を確認することが大切です。
    退職理由は「会社都合退職」と「自己都合退職」がありますが、会社都合退職のほうが、失業保険の基本手当の受給の際に有利となります

    退職勧奨による退職の場合には、会社側の事情による退職になりますので、通常は会社都合退職となります。しかし、会社によってはそのことを知らずに自己都合退職扱いにしている場合もありますので、会社都合による退職にしてもらえるように、会社側に確認をするようにしましょう。

  3. (3)解雇である場合には解雇理由証明書の交付を求める

    会社から「辞めてくれ」と言われる状況は、退職勧奨ではなく「解雇」とみなされることもあります。
    解雇の場合には、厳格な要件が必要になり、通常解雇、整理解雇、懲戒解雇によって具体的な解雇の要件が異なってきます。そのため、どのような理由で解雇がなされたのかを明らかにするためにも、会社に対して解雇理由証明書の交付を求めるようにしましょう

    「解雇理由証明書」とは、会社が労働者を解雇した理由について記載した書面であり、労働者から解雇理由証明書の交付を求められた場合には、必ず交付しなければならないとされています(労働基準法22条2項)。
    不当解雇を争うためにも必要となる証拠となりますので、必ず請求してください。

5、弁護士に相談するメリット

会社から辞めてくれと言われた場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)退職勧奨に応じるかどうかをアドバイスしてもらえる

    労働者のなかには、退職勧奨を受けた場合に労働者に退職するかどうかの決定権があるということを知らない方もおられます。
    弁護士に相談することによって、「退職するかどうかの自由があることを知らずに退職に応じてしまった」という事態を回避することができます

    また、退職勧奨に応じるかどうか迷っているという場合でも、弁護士であれば、退職勧奨に応じた場合のメリットと退職勧奨に応じない場合のメリットをそれぞれ詳しく説明することができます。自分だけで判断して不利な結果になるという事態を回避することもできるでしょう。

  2. (2)違法な退職勧奨を受けた場合に会社との対応を任せることができる

    違法な退職勧奨を受けて退職に応じてしまったとしても、退職の意思表示に瑕疵があったことを主張して、退職の効力を争うことができます。
    既に再就職してしまったという方であっても、退職の効力が否定された場合には、退職日以降の賃金を請求することもできますので会社の対応に納得がいかない場合には、しっかりと争うことが大切です。

    退職の効力を争う場合には、まずは、会社との間で話し合いをすることになります。
    しかし、「既に退職をした会社と話し合いをする」ということに対して、ストレスを感じる方もおられるでしょう。
    弁護士には、労働者の代理人として会社と交渉するように依頼することができます。話し合いで解決することができず、裁判になった場合でもすべて弁護士に任せることができます。時間的な手間や、精神的な負担を軽減するためにも、ぜひ弁護士にご依頼ください。

6、まとめ

会社から「辞めてくれて」と言われたとしても、すぐに応じてはいけません。退職勧奨の場合には、辞めるかどうかは労働者の側で自由に決めることができます。辞めるつもりがないのであれば、はっきりと、その旨を伝えることが大切です。

大分県にお住まいの労働者の方で、会社から「辞めてくれ」と言われており、その対応にお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスまでお気軽にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています