退職勧奨に応じたが取り消したい! 後日申し出は可能? 対応法を解説
- 不当解雇・退職勧奨
- 退職勧奨
- 取り消し
勤め先からの退職勧奨に応じてしまったものの、「やっぱり取り消したい」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
厚生労働省が公表している「令和6年個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和6年度における退職勧奨の相談件数は2万5604件でした。
本コラムでは、退職勧奨の取り消しが認められるケースや手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨に応じなければよかった! あとから取り消しはできる?
退職勧奨に応じたあとでも、条件次第では取り消しが認められる可能性があります。ただし、すべてのケースで簡単に取り消せるわけではありません。
以下では、退職勧奨の前提事項や取り消しが認められる可能性のあるケースについて解説していきます。
-
(1)退職勧奨の成立には労働者の同意が必要
退職勧奨とは、会社から従業員に対して退職をはたらきかけ、合意によって雇用契約を終了させることです。一方的に退職を求める「解雇」とは異なり、労働者の自由意思が尊重されます。
労働者の自由意思による合意が重視されるため、強引な説得や心理的圧迫によって合意を得るような行為は認められません。
退職勧奨の方法や手段が適切でない場合は、違法とみなされる可能性もあります。 -
(2)意思表示の取り消しが認められる余地があるケース
退職の意思表示の取り消しが認められる余地があるのは、労働者の自由意思が侵害されていたケースです。具体的には、以下のような状況が挙げられます。
- 精神的に追い詰められていた場合
- 十分に考える時間が与えられなかった場合
- 強要された場合
長時間にわたって執拗に退職をすすめられたり即答を迫られたりするようなケースでは、自由な判断が困難な状況と考えられます。
とくに詐欺や脅迫をともなう退職勧奨を受けていた場合は、意思表示の無効を主張できる可能性が高いといえるでしょう。 -
(3)意思表示の取り消しが難しいケース
一方で、退職の意思表示の取り消しが難しいケースもあります。主な例は、以下のとおりです。
- 自ら納得して退職合意書にサインした場合
- 強要や圧迫などの証拠がまったく残っていない場合
- 退職後に長期間経過している場合
自由意思による合意退職だったとみなされるかどうかが、取り消しの成否をわけるポイントとなります。
2、退職勧奨に応じてから、意思表示の撤回が認められた事例
退職勧奨に応じたあとでも、意思表示が無効と判断され、撤回が認められた事例があります。実際に撤回が認められた代表的な事例について、以下で具体的に確認していきましょう。
-
(1)執拗な退職勧奨が違法と認められた事例
下関商業高校事件(最高裁 昭和55年7月10日)は、複数回かつ長時間にわたる退職勧奨が問題となった事件です。
教育委員会職員は、退職勧奨に応じない教員に対し、短期間で10回以上の出頭を命じて長時間勧奨を行いました。また退職に応じるまで勧奨を続ける旨の発言や、勧奨に応じなければ組合の要求に応じないとの態度を示し、心理的圧力を与えたとされています。
結果として、この退職勧奨は違法な退職強要であると判断されました。
退職勧奨が常識的な範囲を超え、労働者の自由意思を事実上奪うほど執拗であれば、違法とみなされる可能性は高いでしょう。 -
(2)錯誤(勘違い)を理由に無効とされた事例
昭和電線電纜事件(横浜地裁川崎支部 平成16年5月28日)は、退職勧奨に応じた意思表示に錯誤があったとして従業員が無効を主張した事件です。
従業員は退職勧奨を受けた際、「応じなければ解雇される」と誤信した結果、自ら退職届を提出し自己都合退職しました。しかし実際には会社に解雇の合理的理由はなく、退職届は誤った認識に基づくものでした。
裁判所は、こうした状況を「錯誤」と判断し、退職の意思表示を無効としました。
退職以外に選択肢がないと信じ込んでいた場合、退職願や退職届を提出したあとでも意思表示を取り消しできる可能性があります。錯誤があったことを立証するには、上司とのメールや面談の記録を残すことが重要です。 -
(3)強迫が認められた事例
石見交通事件(松江地裁益田支部 昭和44年11月18日)は、従業員に対し懲戒解雇をほのめかし退職を強要した事件です。
従業員が同僚と情交し懐妊したことに対し、上司は懲戒解雇事由にあたるとの間違った認識により自主退職するよう迫りました。裁判所は退職の意思表示が「強迫」によるものであると判断しています。
「辞めなければ懲戒解雇になる」などと事実とは異なることを伝えて義務のないことをさせるのは、強迫に該当する行為です。このようなケースでは、会社側が拒否していたとしても、意思表示の取り消しを主張できます。
お問い合わせください。
3、退職勧奨に応じた意思表示を取り消す方法
退職勧奨に応じた意思表示を取り消すには、適切な手続きを進める必要があります。退職日が過ぎると撤回が難しくなる可能性があるため、早めに行動することが重要です。
以下では、退職勧奨を取り消すための具体的な流れを解説します。
-
(1)会社に申し出る
まずは、できるだけ早く会社に取り消しを申し出ましょう。申し出る先は、退職の意思を伝えた直属の上司や人事部などです。
申し出る際に伝えるべきポイントは、次の3つです。- 退職せず勤務を継続したいという希望
- 退職の撤回によって迷惑をかけたことに対する謝罪
- 今後の会社への貢献などの意思表明
撤回の意思を伝えることで、退職手続きをストップできる可能性があります。感情的に訴えるのではなく、冷静かつ丁寧な対応を心がけましょう。
-
(2)退職撤回通知を提出する
退職意思の撤回は口頭で申し出ても問題ありませんが、「退職撤回通知」を提出する方法もあります。退職撤回通知とは、退職の意思表示を撤回する旨を記載した書面です。
退職撤回通知を提出する際は、差出日時・差出人・宛先・内容が記録される「内容証明郵便」で送るのが一般的です。
書面で残すことにより、「退職意思を撤回した事実」が証拠として残り、後々のトラブルを防止できます。 -
(3)証拠を準備する
退職勧奨に対する意思表示を取り消す際は、自由意思が奪われていたことを客観的に示す証拠集めも重要です。主な証拠として、以下のようなものが挙げられます。
- 退職勧奨時の録音データ
- 上司とのメールや社内チャットの履歴
- 退職を迫られた状況を記録したメモや日記
- 同僚など第三者の証言
とくに録音データやメールの履歴は、執拗な退職勧奨や強迫的言動を裏付ける強力な証拠となり得ます。
-
(4)会社と交渉する
証拠を整えたあとは、退職の意思表示の取り消しについて会社と交渉を行います。交渉では、感情的なやり取りを避け、事実に基づいた冷静な話し合いをすることが大切です。
個人で会社と交渉することに不安がある場合や、会社が取り合ってくれない場合には、弁護士への相談を検討しましょう。弁護士は会社との交渉を代行できるため、直接交渉する必要がなくなり精神的負担を軽減できます。 -
(5)労働審判または訴訟
会社が取り消しを拒否した場合は、労働審判や訴訟を通じて退職の意思表示が無効であることを主張できます。
労働審判は、労働関係のトラブルを迅速かつ適切に解決するための法的手続きです。原則として3回以内の期日で審理が行われるため、訴訟よりも短期間での解決を期待できます。
訴訟を提起する場合は時間がかかりますが、証拠が十分であれば退職の無効が認められる可能性もあります。法的手続きを検討する際は、事前に弁護士に相談しアドバイスを受けるのがおすすめです。
お問い合わせください。
4、退職勧奨の取り消しが難しい場合はどうする?
退職勧奨の意思表示を取り消すことが難しい場合でも、状況次第では慰謝料請求や不当解雇の主張が可能なケースがあります。
自ら納得してサインした場合や、圧力を裏付ける証拠が残っていない場合、意思表示の取り消しは認められにくいです。しかし、退職に至る過程で不当な対応があったと証明できれば、別の法的手段で救済を求められる場合があります。
慰謝料請求や不当解雇の主張を成功させるには、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士に相談するメリットは、以下のとおりです。
- 慰謝料請求や不当解雇に該当するかどうか法的に判断できる
- 証拠の収集方法や会社との交渉についてアドバイスが受けられる
- 労働審判や訴訟に発展した場合も手続きを任せられる
労働問題の実績が豊富な弁護士であれば、過去の判例を踏まえた現実的な見通しを示せるため、今後の方針を決めやすくなるでしょう。
お問い合わせください。
5、まとめ
退職勧奨は、あくまでも労働者の合意が前提となる手続きです。したがって、強要や執拗な勧奨など不当な手続きがあった場合は、退職の意思表示の取り消しが認められる可能性があります。
会社との対応に不安がある場合や、取り消しできるケースに該当するか迷ったときは、弁護士へ相談することをおすすめします。早めに労働問題に詳しい弁護士へ相談することで、自分にとって最良の選択を見極めやすくなるでしょう。
退職勧奨を受け入れたあとに取り消しできるのか悩んでいる方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
