残業代を支払わないと就業規則に書かれているのは違法?
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残業をしても、残業代が支払われない理由を確認したところ「就業規則に残業代は支払わないと書いてあるから、残業代は出ない」といった説明を受けた方もいるかもしれません。
しかし、残業代の請求は労働者の法的な権利です。就業規則に「残業代は払わない」と定められていたとしても、権利を奪うことはできません。そのため、残業をしたら就業規則の定めと関係なく、会社に対して残業代の請求が可能です。
また、悪質な会社だと、就業規則への記載以外の方法を使って、残業代の支払いを拒否することがあります。自分の残業代が適切に支払われているか知るためにも、よくある違法な手段も把握しておくとよいでしょう。
今回は、就業規則に「残業代を支払わない」と記載されていることの違法性や、そのほかの違法な手口などについて、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。


1、残業代を支払わないと書かれている就業規則は違法?
そもそも就業規則とは、賃金や労働時間などの労働条件や、職場内の規律などを定めた規則集のことです。就業規則に定められた労働条件は、労働契約の内容となる効果があります。これを「労働契約規律効」といいます。
つまり、就業規則に「残業代は一切支払わない」などと定められていたら、それが労働契約の内容となり、会社に対して残業代を請求できなくなると考える方もいるでしょう。
結論、そのような定めは労働基準法に違反して、無効となります。
労働基準法では、法律よりも労働者に不利な内容を就業規則で定めることができず、そのような内容は無効になると定められています(労働基準法92条1項)。また、就業規則で無効になった部分については、法律の規定が適用されます(労働契約法13条)。
そのため、就業規則に「残業代は一切支払わない」と定められていたとしても、労働基準法に基づいて、会社へ残業代を請求することが可能です。
2、こんな会社のルールは、違法の可能性がある!
就業規則に残業代を支払わないと定める以外にも、以下のような違法な手口により、会社が残業代の支払いを拒むことがあります。このような手口に心当たりがある方は、残業代を請求できる可能性があるため、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
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(1)会社の指示による持ち帰り残業や在宅勤務に、残業代が出ない
残業代を請求できるのは、会社で残業をした場合だけではありません。
仕事を持ち帰って自宅で行う場合(持ち帰り残業)や在宅勤務であっても、会社からの明示または黙示の指示により行えば労働時間に該当し、残業代を請求できます。
また、会社の指示による持ち帰り残業や在宅勤務に対し、残業代が出ないルールがあることも違法です。 -
(2)タイムカードを打刻させてサービス残業をさせている
定時でタイムカードを打刻させたにもかかわらず、それ以降も残業を指示する会社もあるかもしれません。いわゆる「サービス残業」と呼ばれますが、このようなケースでも、会社に対して残業代を請求できます。
ただし、残業代請求をする際には、実際に残業した時間を立証していかなければなりません。タイムカードにサービス残業の時間が反映されていない場合には、パソコンのログなど、タイムカード以外の方法で立証する必要があるでしょう。 -
(3)名ばかり管理職
労働基準法では、経営者と一体的な立場にある労働者のことを「管理監督者」と呼びます。管理監督者は、労働基準法が定める労働時間、休憩、休日についての規定が適用除外されます。
自分が管理監督者に該当するかどうかは、業務内容、権限、待遇などをもとに、実質的に判断されます。そのため、課長やマネージャーといった肩書が与えられているだけでは、管理監督者には該当しません。
それにもかかわらず、肩書だけで管理監督者と判断され、会社から残業代が支払われない状況は、いわゆる「名ばかり管理職」で違法です。名ばかり管理職にあたる方は、会社から残業代が出ないと言われたとしても、残業代を請求することができます。 -
(4)固定残業代以外の残業代が一切出ない
固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。
固定残業代が導入されている場合、一定時間分の残業代については、固定残業代として支払われます。固定残業時間の範囲内の残業については、会社に対して残業代を請求することはできません。
しかし、固定残業代制度は、残業代の支払いが一切不要になる制度ではありません。固定残業時間を超えて働いた場合には、会社に対して、固定残業代とは別に残業代を請求することができます。
お問い合わせください。
3、会社に未払い残業代を請求する流れ
未払い残業代がある場合、以下の手順で会社へ残業代を請求しましょう。
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(1)未払い残業代に関する証拠を集める
未払い残業代の請求をする場合、残業代が未払いであることを証拠によって立証していかなければなりません。証拠がなければ、会社に未払い残業代を支払ってもらうことは困難なため、まずは十分な証拠を集めることが重要です。
未払い残業代に関する証拠には、以下のようなものがあります。使える証拠がないか、確認しましょう。- タイムカード
- 勤怠管理システムのデータ
- 出勤簿
- 業務日報
- パソコンのログ記録
- 業務用メールの送信履歴
- LINEやチャットでの業務連絡の履歴
- 残業時間をまとめたメモ
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(2)未払い残業代を計算する
未払い残業代についての証拠が確保できたら、次は証拠を踏まえて未払いの残業代を計算します。
未払い残業代の基本的な計算式は、以下のとおりです。1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
- 1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
- 1か月の平均所定労働時間=(365日-年間の所定休日日数)×1日あたりの所定労働時間÷12か月
ただし、時間外労働など、勤務した時間によっては割増賃金率が定められています。- 時間外労働:25%以上
- 深夜労働(午後10時から翌午前5時まで):25%以上
- 休日労働:35%以上
- 月60時間を超える時間外労働:50%以上
未払い残業代を正確に計算するには、上記の計算式に含まれる各要素を正しく理解する必要があり、慣れていないと正しく計算することは困難でしょう。そのため、残業代計算は、弁護士に任せるのがおすすめです。 -
(3)内容証明郵便を送付して会社と交渉する
残業代の計算ができたら、会社に対して配達証明付き内容証明郵便を送付して、未払い残業代の支払いを求めてきます。
未払い残業代の請求には時効があります。2020年4月1日以降に発生した残業代は、3年が時効です。しかし、内容証明郵便を利用することで、万が一訴訟を行うことになっても、催告で時効の完成を6か月間猶予している証拠となります。そのため、時効が迫っている場合には、内容証明郵便が有効な手段といえるでしょう。
さらに、内容証明郵便に配達証明のオプションを付けることで、もし会社から「内容証明郵便は受け取っていない」と言われても、郵便物が会社に配達されたことを証明できます。
また、会社とスムーズに話し合いを進めるためにも、残業代計算の根拠となる資料があれば別途送付するようにしましょう。
これらの対応により、会社が残業代の支払いに応じる意思を示したときは、詳細な条件を取り決めて、その内容を書面に残します。口頭での合意だけでは、後日トラブルになることがあるため、必ず書面を作成するようにしてください。 -
(4)労働審判や訴訟を検討する
会社との交渉で解決できなかった場合は、裁判所に労働審判の申し立てや訴訟提起を行います。
労働審判は、訴訟と比べて迅速かつ柔軟に紛争を解決するための制度です。会社と話し合いにより、解決できる余地が少しでも残されているようであれば、労働審判の利用を検討してみましょう。
なお、労働審判の結果に不服であれば、異議申し立てをすることで、労働審判の効力がなくなり訴訟手続きに移行します。そのため、最終的には訴訟により解決を図ることになります。
4、残業代のトラブルを弁護士に相談するメリット3つ
残業代のトラブルについては、弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士に相談するメリットを3つ紹介しましょう。
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(1)会社との交渉を任せられる
残業代を請求するには、会社との交渉が不可欠です。しかし、自分ひとりでは会社が誠実に対応してくれない可能性があり、不利な条件での解決案を押し付けられるリスクもあるでしょう。
弁護士であれば、あなたに代わって会社と交渉を行うことが可能です。弁護士が交渉を代行することで、会社も不誠実な態度をとりにくくなります。また、法的観点から残業代請求の正当性を主張し、会社を説得することで、交渉による早期解決が期待できるでしょう。 -
(2)法的に有効な証拠に関するアドバイスを受けられる
証拠の有無は、残業代請求の結果を左右するほど重要な要素です。
十分な証拠がそろっていれば、裁判になったとしても勝訴の確率が高まります。まずは残業代請求に必要な証拠を確保するようにしてください。
弁護士であれば、法的に有効な証拠についてアドバイスが可能です。また、弁護士は会社に対して証拠開示請求ができるうえに、証拠隠滅のおそれがあるときは、裁判所の証拠保全の申し立てを行うこともできます。
なお、弁護士に依頼する際は、必ずしも証拠を用意しておく必要はありません。手元に証拠がなくても、まずは弁護士に相談しましょう。 -
(3)労働審判や訴訟などの法的手続きをサポートしてくれる
会社との交渉で解決できない場合は、裁判所への労働審判の申し立てや訴訟提起が必要になります。
労働審判や訴訟などの法的手続きは、知識や経験に乏しい一般の方では対応が難しいかもしれません。そのため、専門家である弁護士に任せるのが安心です。弁護士は、労働者の代理人として労働審判や訴訟に対応するため、個人で対応するよりも残業代請求が認められる可能性が上がるでしょう。
5、まとめ
就業規則に「残業代は、一切支払わない」などと記載し、労働者に残業代を支給しない状況は、労働基準法違反の可能性があります。また、残業代について会社独自のルールがある場合も、労働基準法に違反している可能性があるため、未払い残業代の請求も含めて弁護士に相談するようにしましょう。
会社への残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています