【企業向け】代替休暇制度とは? 導入に必要な手続きや注意点を解説
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大分労働局によると、2020年度に長時間労働が疑われるとして労働基準監督署の監督指導が実施された大分県内の事業場は299事業場でした。そのうち、賃金不払い残業があったものは23事業場となっています。
労働者に長時間労働をさせると、仕事の効率が落ちるなどの支障が生じるほか、労働者が健康を害して労災トラブルが発生するおそれもあります。もし、自社に月60時間を超える残業をしている従業員がいるならば、「代替休暇制度」によって休暇を与えることを検討してみましょう。
代替休暇制度には、労働者にとっては「休息の機会が得られる」というメリットがあり、会社にとっても「人件費を抑えられる」というメリットがあるのです。本コラムでは、「代替休暇制度」の内容や手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。
1、代替休暇制度とは?
「代替休暇制度」とは、月60時間を超える時間外労働をした労働者を対象として、割増賃金率をアップさせることの代わりに休暇を与える制度です。
労働基準法第37条第1項但し書きでは、月60時間を超える部分の時間外労働につき、通常の賃金に対して50%以上の割増賃金を支払うべき旨を定めています。
月60時間以下の部分については、割増率が25%以上とされているのに比べて、月60時間を超える部分の割増率は高くなっています。
労働者に対して、労働基準法所定の時間数以上の代替休暇を付与すれば、月60時間を超える時間外労働についても、割増賃金率は通常の時間外労働と同等の25%以上となります。
労働者にとっては、割増賃金が得られなくなる代わりに、休暇によって心身をリフレッシュできるというメリットがあるでしょう。
会社にとっても、人件費の金額を抑えられるというメリットがあります。
なお、令和5年3月31日までは、中小企業は月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金支払い義務は免除されています(25%以上でOK)。
しかし、令和5年4月1日以降は、中小企業にも「50%以上」の規定が適用されるようになります。
そのため、中小企業を経営されている方も、今のうちから代替休暇制度の導入を検討しておくとよいでしょう。
2、代替休暇制度と振替休日・代休・年次有給休暇の違いは?
労働基準法では、休暇に関する制度として「振替休日」「代休」「年次有給休暇」が認められています。
しかし、代替休暇制度はこれらのいずれとも異なるものです。
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(1)振替休日|労働日と法定休日を事前に振り替える制度
代替休暇制度が月60時間を超える時間外労働に対応する休暇制度であるのに対して、振替休日は、休日労働に対応する休暇制度であるという違いがあります。
振替休日は、もともと法定休日であった日を事前に労働日へ振り替える際、代わりに休暇へ振り替えられる労働日のことです。
後述する代休とは異なり、振替休日の場合は、事前に労働日と法定休日を振り替えることが必須となります。
振替後の労働日(もとは法定休日)に労働者が働いたとしても、すでに法定休日ではなくなっているので、休日労働に対する割増賃金率(35%以上)は適用されず、通常の賃金を支払えば足ります。
その反面、振替休日については無給となるため、トータルで見た場合、会社は残業代の支払いが不要となるのです。 -
(2)代休|法定休日の労働後、労働日に休暇を取る制度
代休も振替休日と同様に、休日労働に対応する休暇制度です。
代休は、法定休日に働いた労働者に対して、労働日に与える休暇を意味します。
振替休日とは異なり、代休の場合、労働日と法定休日の間で事前の振替は行われません。
労働をしたのはあくまでも法定休日という取り扱いになるため、休日労働の割増賃金率(35%以上)は適用されます。
その一方で、代休日については無給となるため、トータルで見た場合、会社は休日労働の割り増し部分についてのみ残業代を支払うことになります。 -
(3)年次有給休暇|労働者の権利である有給の休暇取得制度
年次有給休暇は、労働者の権利として付与される休暇であり、時間外労働や休日労働とは関係がありません。
また、代替休暇・振替休日・代休がいずれも無給であるのに対して、年次有給休暇は有給であるという違いがあります。
会社には、労働者の継続勤務年数に応じて、以下の日数以上の年次有給休暇を付与することが義務付けられています(全労働日の8割以上出勤した労働者に限ります)。
継続勤務年数 有給休暇の日数 6カ月以上1年6カ月未満 10日以上 1年6カ月以上2年6カ月未満 11日以上 2年6カ月以上3年6カ月未満 12日以上 3年6カ月以上4年6カ月未満 14日以上 4年6カ月以上5年6カ月未満 16日以上 5年6カ月以上6年6カ月未満 18日以上 6年6カ月以上 20日以上
3、取得できる代替休暇の時間数の計算方法
代替休暇制度を導入した場合、労働者に付与する代替休暇の時間数は、以下の計算式によって算出します(労働基準法第37条第3項)。
「換算率」とは、時間外労働の通常の割増賃金率(25%以上)と、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率(50%以上)の差に相当する率です。
たとえば、労働者が月80時間の時間外労働を行い、通常の割増賃金率が25%、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%の場合、代替休暇の時間数は「5時間」となります。
=(80時間-60時間)×(50%-25%)
=20時間×25%
=5時間
なお、代替休暇を取得するかどうかは労働者の任意であるため、5時間すべてを代替休暇に充てることもできます。逆に、代替休暇の全部または一部を放棄して、50%以上の割増賃金の支払いを受けることを選択することもできるのです。
4、代替休暇制度の導入に必要な手続き
代替休暇制度を導入する際には、所定の事項を定めた労使協定を締結したうえで、就業規則にも代替休暇制度の内容を規定する必要があります。
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(1)労使協定の締結が必要
代替休暇制度を導入する場合、会社と労働者側の間で労使協定を締結することが必要です(労働基準法第37条第3項)。
労使協定においては、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合が労働者側の当事者となります。組合がないときは、労働者の過半数代表者が当事者となるのです。 -
(2)労使協定で定めるべき事項
代替休暇制度に関する労使協定では、以下の事項を定めなければなりません(労働基準法施行規則第19条の2第1項)。
① 代替休暇として与えることができる時間数の算定方法
代替休暇の時間数は、「月60時間を超える時間外労働の時間数×換算率」以上とする必要があります。
② 代替休暇の単位
1日または半日とする必要があり、1時間単位の付与は認められません。
ただし、代替休暇以外の有給休暇と合わせて付与できる旨を定めた場合には、当該休暇と合わせて1日または半日単位で付与することができます。
(例)所定労働時間が1日8時間の場合に、年次有給休暇3時間と代替休暇5時間を合わせて1日の休暇を付与する
③ 代替休暇を与えることができる期間
60時間を超える時間外労働が行われた月の末日の翌日から、2カ月以内とする必要があります。
(例)2022年4月に60時間を超える時間外労働が行われた場合
→2022年5月1日~6月30日 -
(3)就業規則にも代替休暇制度の内容を規定する
休暇に関する事項は、就業規則に記載することが義務付けられています(労働基準法第89条第1号)。
したがって、代替休暇制度を導入する際には、就業規則の改定および労働基準監督署への届け出が必要です。
なお、就業規則には、代替休暇制度の内容をすべて詳細に規定する必要はありません。そのため、労使協定等の内容を引用するかたちで規定することも認められます。
5、代替休暇制度の導入・見直しは弁護士にご相談を
代替休暇制度は、労働者のワークライフバランスを確保するとともに、会社の人件費を抑制できるメリットのある制度です。
代替休暇制度の導入や見直しにあたっては、労働基準法に定められたルールや手続きを遵守する必要があるため、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、クライアント企業における労働時間の実態などをふまえたうえで、労働基準法上の手続きに加えて、代替休暇制度の設計などについてもアドバイスすることができます。
企業を経営されており、代替休暇制度の導入や見直しをすることで自社の労働環境を改善したいとお考えの方は、まずは弁護士にご連絡ください。
6、まとめ
月60時間を超える時間外労働をした労働者が代替休暇を取得した場合、会社は通常の賃金に対して50%以上の割増賃金を支払う必要がなくなり、25%以上の割増賃金を支払えば足ります。
労働者の健康を保護し、労働環境を改善することが重要視されている昨今では、長時間労働が横行している企業にとって、代替休暇制度の導入は有力な選択肢となるでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、代替休暇制度の導入・見直しに関するご相談を随時受け付けております。
どのようなかたちで代替休暇制度を設計するのがよいのか、個別の企業の具体的な事情をふまえながら、親身になって検討いたします。
大分県で企業を経営されており、代替休暇制度の導入や見直しをご検討中の方は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスにご相談ください。
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