【介護業界】カスハラに対してとるべき対応を解説

2024年04月18日
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【介護業界】カスハラに対してとるべき対応を解説

近年では、カスハラ(カスタマーハラスメント)は深刻な問題となっています。カスハラとは、顧客や取引先などからの過剰や要求や不当な言いがかりなどを指す言葉です。

介護業界でも利用者やその家族からのカスハラの被害が生じています。カスハラの被害に気付いていながら放置していると、労災に発展したり職員の離職につながったりする可能性もあるため、介護事業所としては適切に対処することが大切です。

本コラムでは、介護業界で生じるカスハラの対処法について、ベリーベスト法律事務所 大分オフィスの弁護士が解説します。

1、介護業界におけるカスハラとは

まず、介護業界で発生しているカスハラの内容や、カスハラに対処できなかった場合に生じる影響について解説します。

  1. (1)介護業界でよくあるカスハラの例

    介護業界では、介護事業所の利用者やその家族から、以下のようなカスハラを受けることがあります。

    ① 身体的な暴力
    身体的暴力には、殴る、蹴るなどの直接的な暴力だけでなく、物を投げつけるなどの行為も含まれます。
    介護事業所の職員は、不満を抱いた利用者から以下のような身体的な暴力を受けることがあります。

    • 訪問介護サービスで、訪問時間に遅刻したことを理由にコップを投げつけられる
    • 介助中に手をつねられたり、髪の毛を引っ張られたりする
    • 服を破かれたり、眼鏡を壊されたりする


    ② 精神的な暴力
    精神的な暴力とは、心無い言動などにより相手の心を傷つける行為です。
    介護事業所の職員は、利用者から以下のような精神的暴力を受けることがあります。

    • ミスに対して怒鳴られたり、文句を言い続けられたりする
    • 理不尽なサービスを何度も要求される
    • 悪口を言われたり、罵倒されたりする


    ③ セクシュアルハラスメント
    セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、性的な言動により相手を不快な気持ちにさせることをいいます。
    介護事業所の職員は、以下のようなセクハラを受けることがあります。

    • 必要もなく手や腕を触られる
    • 職員がいる前でアダルトビデオを流されたり、ヌード写真を見せられたりする
    • 卑わいな言動を繰り返される
  2. (2)カスハラに対処できなかった場合の影響

    上記のようなカスハラがあったにもかかわらず、事業所側が適切な対処をしなかった場合には、以下のような悪影響が生じる可能性があります。

    ① 労災に発展するリスク
    介護事業所の職員が利用者やその家族からカスハラを受け続けると、精神的ストレスからメンタルに不調が生じ、うつ病などの精神疾患を発症するおそれがあります。

    そして、業務中の出来事が原因となってうつ病を発症した場合には、労災(労働災害)に発展するリスクもあるのです。

    ② 職員の離職につながるリスク
    利用者やその家族からカスハラを受けている状態が続いているのに事業所が何も対処してくれないと、職員は介護事業所に対して不信感を抱いて、離職してしまう可能性があります。

    介護業界では人材不足が広がっているため、優秀な人材が辞めてしまうことになると大きな痛手となるでしょう。

    ③ 職員から損害賠償請求を受けるリスク
    労働者を雇用する企業や事業所など(使用者)には、労働者が安全かつ健康に労働できるように必要な配慮をする「安全配慮義務」が義務付けられています。

    カスハラを認知しながら適切な対処をせず放置していると、カスハラ被害を受けた職員から安全配慮義務違反を理由として損害賠償を請求されるおそれがあります。

2、カスハラが起こってしまった場合の初動対応

以下では、カスハラが起きた場合には事業者がとるべき対応を解説します。

  1. (1)事実の把握

    カスハラは、初期対応が重要になります。
    不適切な初期対応を行ってしまうとカスハラの状況がさらに悪化してしまうおそれもあるため、十分に注意して対応にあたることが大切です。

    職員からカスハラの相談を受けた場合には、すぐに事実確認を行いましょう
    また、相談を受けた上司などがひとりで抱え込むことがないようにするため、事業者の責任者や経営者なども含めてできる限り情報が共有できる場を設けるようにしてください。
    カスハラが発生した場合に即座に対応できるようにするため、事前にマニュアルを作成しておくことも有効な対策となります。

  2. (2)要因分析

    カスハラが発生したら、経緯の把握を行って、問題の要因を分析して明らかにしていきましょう

    介護業務では利用者と職員が一対一になる場面が多いため、カスハラであるかどうかの判断が難しいケースも多いといえます。
    そのため、カスハラの疑いがある利用者には、複数の職員で対応するとともに、録音や録画などでカスハラがあったことの証拠を集めることも必要になってきます。

  3. (3)具体的な対処

    カスハラの事実が確認できたら、カスハラを受けた職員やカスハラを行った利用者に対して、具体的な対処を行っていきましょう

    必要な場合には、外部のケアマネジャーや地域包括支援センター、警察や行政などに相談して協力を仰ぐことも検討してください。

3、ひどいカスハラの場合には契約解除が可能

利用者やその家族から行われるカスハラが悪質な場合には、利用者の契約を解除することも検討しましょう。

  1. (1)契約解除の検討

    利用者やその家族からひどいカスハラを受けた場合には、利用者との契約を解除できる可能性があります

    介護事業所側から契約を解除するためには、「正当な理由」が必要になります。
    正当な理由の有無は個別具体的な事情により異なってきますが、カスハラの場合には、主に以下のような要素が考慮されます。

    • ハラスメントによる結果の重大性
    • ハラスメントの再発可能性
    • 契約解除外のハラスメントを防止する方法の有無
    • 契約解除による利用者の不利益の程度


    また、契約解除が認められる正当な理由がある場合であっても、契約の解除以外の方法での解決が可能であるかを検討することも必要とされます。
    具体的には以下のような措置を講じたうえで、それでもカスハラが改善されなかった場合には契約を解除できる可能性が高まります。

    • 利用者の家族との話し合いにより信頼回復に努め、再発防止を図る
    • 担当職員を変更する


    また、契約解除により利用者に不利益が及ばないようにするためにも、後任の事業所を紹介することなども必要になります。

  2. (2)警察への通報

    介護事業所だけで対応できないような悪質なカスハラであった場合には、警察への通報も視野に入れましょう
    カスハラの態様によっては、以下のような犯罪が成立する可能性があります。

    • 暴行罪
    • 傷害罪
    • 脅迫罪
    • 強要罪
    • 監禁罪
    • 不同意わいせつ罪

4、顧問弁護士を依頼した場合のメリットとは

介護事業所の経営者で、利用者からのカスハラに適切に対処することやカスハラを予防することを希望されている方は、顧問弁護士に依頼することを検討してください。

  1. (1)カスハラ対応マニュアル作成サポートできる

    カスハラを未然に防止するためには、職員に利用者との対応の基本的なルールを周知することが大切です。
    そのためには、事前に利用者との対応マニュアルを作成しておく必要があります。
    また、実際に発生したカスハラに迅速に対処するためには、あらかじめカスハラ対応マニュアルを作成することも重要になります。

    顧問弁護士であれば、事業所の実情を十分に把握したうえで、適切なマニュアルの作成をサポートすることができます

  2. (2)トラブルが起こった場合の代理人となれる

    カスハラにより利用者やその家族とトラブルになった場合には、利用者らを相手にして対応をしていかなければなりません。
    また、カスハラにより職員がうつ病などを発症した場合には、職員から安全配慮義務違反を理由に訴えられる可能性もあります。

    顧問弁護士に依頼していれば、問題が起こったとしても早期から対応を行うことができるため、トラブルが深刻化する前に解決しやすくなります

  3. (3)カスハラ以外の労働問題などにも対処可能

    介護事業所を経営していると、カスハラ以外にも従業員の解雇、残業代請求などの労働問題が生じることがあります。

    顧問弁護士を利用していればいつでも気軽に相談することができるため、カスハラ以外の労働問題が生じたとしても、すぐにアドバイスを受けて適切に対処することができます

5、まとめ

介護現場では、利用者や利用者家族からのカスハラが深刻な問題となっています。
カスハラを放置することには職員の離職や職員からの損害賠償請求などのリスクが潜んでいるため、カスハラが発生した場合には早期から適切に対処することが大切です。

顧問弁護士を利用すれば、カスハラの対処や予防が行いやすくなります。
介護事業所の経営者で顧問弁護士の利用を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています